浅野長勲夫妻の石像|真壁石に刻まれた、最後の大名と妻の面影

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浅野長勲夫妻の石像

曇天を背に、二体の石像が高い台座の上から町を見下ろしている。片や束帯に烏帽子、笏を手にした男の像、片や打掛をまとい、静かに前を見る女の像。これは神でも仏でもない。桜川市が文化財(彫刻)に指定した、浅野長勲(ながこと)とその夫人の石像だ。祭神を探す目でここに立つと、空振りする——ここに刻まれているのは、人の記憶そのものである。

まず土地を読む。実測の標高はおよそ三十二メートル、周囲三百メートルに三メートルの起伏もない、真壁町飯塚の平坦地だ。背後に筑波山塊を控えたこの一帯は、古くから良質の花崗岩を産してきた。真壁石・稲田石——白みを帯びて硬く、細工に堪える御影石の産地である。説明板にかすかに読める「稲田亀吉」の名は、この石の町に根を張った石工の名だろう。つまりこの夫妻像は、よそから運ばれた記念碑ではない。足もとの山が吐き出した石を、地元の鑿(のみ)が人のかたちに彫り起こしたものだ。石像が立派であればあるほど、それはこの土地が石で生きてきた証でもある。像のモデルの威厳より先に、まず石工の手を想うべき場所なのだ。

なぜ浅野家が、広島でも京でもなく、この常陸の片隅に祀られるのか。鍵は説明板にある「浅野長政」と「伝正寺」の二語にある。浅野長政は豊臣秀吉の五奉行の筆頭格として天下の算盤を握った男だが、関ヶ原の後、隠居領としてこの真壁の地五万石を与えられ、ここに骨を埋めた(伝承)。真壁は、天下人の側近が最後に身を寄せた土地なのだ。浅野家の菩提を弔う伝正寺はその縁から開かれ、以後、本家が安芸広島へ移り大藩の主となってなお、真壁との細い糸は切れずに続いた。

そして台座に「従一位侯爵浅野長勲卿」と刻まれた長勲こそ、広島藩最後の藩主である。幕末に家督を継ぎ、薩長と並んで倒幕に動き、維新を越えて侯爵・貴族院議員・イタリア公使を歴任し、九十六歳まで生きた「最後の大名」だ。大名という身分が消えた後の世を、彼は半世紀以上も生きた。殿様が消滅した時代に、かつての殿様が、祖先ゆかりの地に遠く礼を尽くし、その返礼として地元が夫妻の像を彫る——大正七年竣工というこの像には、失われた主従という旧い理(ことわり)と、それを顕彰で繋ぎとめようとした明治・大正の人びとの思いが、二重写しになっている。

ここに、静かな多声がある。公式の物語は「最後の大名夫妻を顕彰する」という一行だ。だが石の側から読めば、これは中央の歴史(五奉行・倒幕・華族制度)が、花崗岩の産地という地方の技を借りて自らを刻み残した記念物でもある。殿様の栄光と、名もなき石工の鑿、そのどちらが欠けてもこの像は立たない。顕彰碑はしばしば権力者の視点からしか語られないが、この像の本当の作者は、台座の隅に小さく名を残す地元の職人たちだったのかもしれない——とも読める(これは解釈だ)。

そして、この像には鎮魂に似た一章が刻まれている。説明板がかすかに告げる「東日本大震災」「平成二十九年秋移設」の文字。大地が揺れ、台座は傷み、夫妻の像は一度その居場所を失った。それでも打ち捨てられず、修復され、志ある人々の手でこの地へ移し据えられた。倒れたものを、なかったことにせず、もう一度立て直す——石の町らしい、石のような粘りである。消えかけた記憶を、人はまた据え直す。それがこの土地の返事だ。

この地の因縁あなたとこの場所のストーリー

高い台座の上から、烏帽子の人が静かに町を見晴るかしている。導く者の天命——充実と威厳をその色に宿すあなたには、この像の「頂からの眼差し」が、きっと他の人より深く届く。だが忘れないでほしい。この立派な像を支えているのは、台座の下の、名もなき石工の鑿の一打ちだ。長勲という最後の大名の威厳も、足もとの花崗岩と、それを彫った職人の手がなければ、ただの空に消えていた。高みに立つ者ほど、自分を支える無数の手を見据えられるかどうかで、その威は本物になる。そして震災に倒れてなお据え直されたこの像のように——崩れても、もう一度立て直せばいい。頂に立つあなたの充実は、倒れたものを拾い上げ、据え直す力のことなのかもしれない。

記録した写真

📍 36.277922, 140.092239(日本、〒300-4417 茨城県桜川市真壁町飯塚1008−2)



物語と写真 © KAMI-LEGACY(achoo合同会社)。説明板の原文は各社寺のものです。
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